〜 お気軽にお問い合わせください。 〜

〜 オフィスレター 〜

2021.04.30

組織はなぜ衰退するのか

経営に関する話題 読書の部屋

 「国家はなぜ衰退するのか」(ダロン・アセモグルとジェイムズ・A・ロビンソンの共著)を読みました。この本では、過去に反映した様々な国家を歴史的に分析することによって、その衰退の原因が何なのかを追究しています。 
 産業革命が西欧で起こり、先進諸国は西欧中心であり、現代文明の基礎となった様々な発見や発明も西欧諸国でなされてきたことから、その原因を歴史的に分析してみたところ、「長期的な経済発展の成否を左右する最も重要な要因は、地理的・環境的・生態学的条件の違いでも、社会的要因、文化の違いでも、いわんや人々の間の生物学的・遺伝的際でもなく、政治経済制度の違いである」としています。
 そしてその政治経済制度ですが、「収奪的経済制度」や「収奪的政治制度」は、一時的には効率的な発展を遂げることはあっても、持続的に発展し続けるインセンティブにかけることになるとしています。

 その原因としては「収奪的政治制度の下では、仮に包括的経済制度(市場経済制度のこと)が機能していたとしても、『創造的破壊』を伴う技術革新への許容度が極めて低い」としています。
なぜなら「創造的破壊による新技術、新製品、新産業の出現は、既存の産業構造を揺るがし、既得権益に対して破壊的に働くため、政治体制を支配するエリートの社会経済的基盤が揺るがされることを収奪的政治制度は許さない」からなのです。

 「自由な市場経済」が最も創造的破壊を伴う技術革新や新商品、新産業の出現を促す制度であることは、もはや誰もが認めざるを得ないのは「ソ連型計画経済」や「北朝鮮経済」を見ていれば自明な理ですが、現代の中国のように収奪的政治制度である「共産党独裁政治」と「市場経済」の組み合わせは、今のところ大変効率的に発展しているように見えます。この現代の中国の経済成長についてもこの版は詳細に分析し、「収奪的政治制度の下では、政府による統制が緩められ、自由な市場競争がある程度進んだとしても、そうした規制緩をの限界はすぐ訪れる」としています。

 現代の中国を見ていると、インフラ整備の効率性やコロナ対応、その後の経済成長等を見ていると、
➀独裁政治によ意思決定と行動の迅速性は民主主義による政治制度よりも格段に優れていること
➁経済活動に関しても深圳などの経済特区の驚異的発展
➂現実的に1987年から始まった「改革開放路線」はこの40年間以上継続して赤い経済成長を続けていること
を考えると、「収奪的政治制度+開放的経済制度」の組み合わせは最強な組み合わせであるとも思える。このことはシンガポールの驚異的発展についても同様に思えます。

この本は、そうだとしても中国の経済発展は
➀「遅れの取り戻し」であり
➁「外国技術の輸入」であり
➂低価格の工業製品の輸出
に支えられているものであるため早晩その限界が来るとしている。

ただ、そうだとしても、私がこの本を読んでまさに不安に思うのは、日本の政治制度の脆弱さである。日本こそまさに、➀遅れの取り戻し、と➁外国技術のモノマネ、➂低価格の工業製品 によって経済成長したのであり、現在の停滞はまさにこの本が指摘する「相続的破壊を伴う新技術、新製品、新産業」が出現していないのである。それを考えると、日本の政治システムがはたして「包括的政治体制」であるのか?という点が不安に思えてきます。
日本人は「和をもって貴しとする国民」であるため、同調圧力が強く、既得権益を持つ者に対して配慮します。コロナワクチンも75歳以上を最優先し、トヨタも下請けに対する配慮からかEVへの流れに遅れがちです。かつてSONYもPanasonicがiPhoneやSamsungにあっという間に抜かれてしまったのも、自由主義経済であるにもかかわらず「周りに配慮して相続的破壊を避ける」という国民性にあるような気がします。日本は真に「包括的政治制度」ではないのだろうなぁ…と考えさせられた一冊でした。

«

»