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2022.04.28

MMTの嘘を誰も言わない

経営に関する話題 読書の部屋

 MMT(現代貨幣理論)の第一人者といえば何といっても「ステファニー・ケルトン」という女性の経済学者が有名である。1969年生まれの53歳の働き盛りで米上院予算委員会の民主党チーフエコノミストを務めたり、バニー・サンダース上院議員の政策顧問を務めたりしている。この人の書いた「財政赤字の神話」という本がハヤカワノンフィクション文庫から発刊されたのでさっそく読んでみた。その感想です。

 現代貨幣理論(MMT)とは、従来の伝統的な財政理論、すなわち「赤字財政を続ければ財政が破綻して経済が大変なことになる」、「日本の財政赤字はとても巨額なので、消費税を増税して財政を健全化しなければ国家が破綻する」といった「従来の常識」に対して最近とても流行している「通貨発行権を持っている国はいくら国債を発行しても破綻しない」という理論である。
 そして「国家の赤字は国民の黒字」であるので、「インフレにならない限りいくら財政赤字を増やしてもよい」という理論である。日本がこれだけ財政赤字を膨らませて国債を発行し続けてもインフレになってないのだから、もっと積極的に財政出動すべきだという積極財政論者の理論的なバックボーンとなっている。そしてもともと現代の紙幣は金との兌換通貨であることを放棄しているのだから、通貨発行権をもつ政府は、いくら貨幣を発行しても何も失わないし、物理的な限界はないのである。重要なことは財政の均衡ではなく経済の均衡であり、インフレをもたらさない限り国債を発行したからと言って国民が困るわけではない。そして反対に「財政を再建しよう」として、消費税を大幅に増税したり、財政支出を大幅に減じたりすれば、国民は苦しむことになる。
 「政府の借金は国民の預金であり、政府の赤字は国民の黒字である」というのは、当たり前のことなのであるが、まさにMMTが「その真実に気づかせてくれた」ともいえるのである。

 ただし注意しなければならないのは、この理論は「アメリカの経済学者」である彼女が積極的に展開している理論であり、アメリカの経済の実態に合わせて、「今はこの理論を主張しても大丈夫だから主張されている」ということである。日本はアメリカと異なり、少子高齢化が急速に進み経済成長があまり期待できず、資源も限られ、若い世代のパワーも逓減していくという時代背景の中にあるということである。そして最も危険なのは、このような経済理論を鵜呑みにしてまき散らそうとする人たちが日本で普及しつつあるということだ。
 日銀の黒田総裁と安部元首相が推進した「アベノミクス」もまさに、よそから借りてきた理論?で実体経済を無視して「通貨をジャブジャブにすれば経済がよくなる」、「円安にすれば景気がよくなる」という空疎な理論に踊っただけだなのだ。

 たぶん多くの経済学者は、このMMTに対して批判的な見解を持っているに違いないのであるが、真正面から批判しようとしていない。この何とも言えない既視感はかつてのマネタリズム論者が今はあまり発言していないのと重なる。

 日本人は自分の分析はできずに、海外の理論を有難がって信じようとする。そして言霊の国なので、現在行われていることを真正面から批判できないのだ。「マスクは意味があるのか」、「ワクチンを3回とか4回とか摂取する意味があるのか」なんて言えなくなるのだ。

 日本の最大の危機は、こんな「自分の頭で考えようとしない」国民性にあるのかもしれない。そして最終的には「黒船」や「戦争」などの外圧によってしか変われない。きっと現在の巨額の財政赤字にとってMMTは都合がよいので、これからもっと「普及」するのだと思う。

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